スポーツコーチを目指す人にとって、最も大切なのは「どう選手に伝えるか」です。
選手が最高のパフォーマンスを発揮できるように、技術や戦術を教えることはコーチの大きな役割ですが、その中で特に難しいのが「優れた動き」を理解させ、実際にできるように導くことです。
どれだけ理論的に正しい説明をしても、選手の身体に落とし込まれなければ成果にはつながりません。だからこそ、コーチに求められるのは知識や理論だけではなく、「どう伝えるか」という表現力です。
言い換えれば、コーチングとは教える技術であると同時に、コーチ自身の自己表現の手段でもあるのです。
選手の成長は素質や才能もあるでしょう――しかしコーチの「伝え方」こそが、最大のカギです。
当記事では、コーチングを目指す人に覚えておいても損がない3つのことをまとめました。
- コーチングで必要な伝え方と考え方
- コーチに向いている人はどんな人か
- そして、コーチングがコーチの表現手段であること
これらでコーチと選手が共に成長するヒントにしてください。
コーチングの伝える方法と考え方|指導方法
スポーツコーチングで選手に優れた動きを伝えるには、難しいゆえにさまざまな工夫が求められます。主な方法は「言葉で伝える」「動作の体感を伝える」「選手の個性に合わせて伝える」「比喩で伝える」「態度や行動で伝える」の5つです。これから、それぞれの指導方法を順に見ていきましょう。

1. 言葉で伝える
優れた動きを教える際、コーチは技術的なポイントを細かく説明しようとします。
例えば、「バク転では、脚の力だけでなく地面からの反作用を利用することが重要だ」と理論を述べることができます。
しかし、これをそのまま選手に伝えたところで、それを体や感覚に落とし込むのは困難です。
さらに未経験者や初心者にとっては、身体の細かい動きを頭で考えながら再現するのは難しいため、「もっと勢いをつけて!」や「お腹を締めて!」といった曖昧な表現に頼らざるを得ない場面が多々あります。
しかも、こうした表現も選手がどの程度感覚的に捉えられるかによって効果が異なります。
解決策の一つとしては、生徒に基本となる動作を反復させる方法です。
これは頭で考えなくても、ある程度の動作ができるようにしてから、細かい指導を容易に受け入れられるようにします。
これで基礎をつくり、次のステップとして、言葉の指導をするのです。
2. 動作の体感を伝える
スポーツにおいての「優れた動き」を可能にさせるのは、理論や外部から見た動き以外に、「感覚」に基づく部分も大きいです。
選手に「地面の反作用を腕に伝える」と説明しても、それをどう表現するかは本人の経験や練習次第です。
ここで重要になるのが、コーチ自身の実演です。
コーチが動作を正確に見せ、選手に模倣させることで、言葉では伝わらない感覚を共有することができます。しかし、これもすべての選手に通用するわけではありません。そこで、体型や身体の使い方が異なる選手に対しては、感覚を引き出す「コツ」と呼ばれる補助動作や練習法を取り入れる必要があります。
練習方法としては、分解練習や補助動作を取り入れたり、制約条件を加えた練習などが挙げられます。
こうした工夫が、選手に「感覚」を体感させ、優れた動きへと導いていきます。
練習法 | 内容 |
---|---|
分解動作練習 | 複雑な動きを細かく分けて練習し、感覚をつかみやすくする。 例:バク転なら「腕の振り」「ジャンプ」「背中の反り」をそれぞれ練習してから組み合わせる。 |
補助動作・サポート練習 | コーチが体を支えたり器具を使って安全に感覚を体験させる。 例:マットや補助ベルトを使って倒立や宙返りを練習する。 |
反復練習(型稽古) | 同じ動きを繰り返し、理論ではなく、感覚を身体に染み込ませる。これは、「1.言葉で伝える」で前述した同じ方法ですが、ここでは違う効果を狙っています。 例:卓球の素振りや武術の「型」のように、自然と正しい感覚が出るまで反復する。 |
制約を加えた練習 | 条件を制限して特定の感覚を強調させる。 例:野球で重いバットを振って体幹の使い方を体感する。 |
3. 選手の個性に合わせて伝える
さらに動きを伝えることを難しくしているのは、選手一人ひとりの身体能力や感覚は異なるため、教え方をカスタマイズする必要があることです。
ある選手には「腰を反らす」と伝えるだけで理解できるかもしれませんが、別の選手には「背中全体で弓のように力を集める」といった別の表現が必要になるかもしれません。
コーチはその場で選手の反応を観察し、適切な表現を選ぶ即時的な判断力が求められます。
実現するには、選手の特徴を探るように観察し分析することを習慣とし、一つの動作を異なる比喩や言い回しで説明できるよう、指導のバリエーションを増やします。(下記の「比喩で伝える」)
この調整した説明で、選手にその実践感覚や意見を聞き出し、その後の指導に反映します。
4.比喩で伝える
コーチングには、科学だけでなく「芸術性」も求められます。
動きの基礎を教えるだけでなく、その感覚を引き出す独自の方法を模索する必要があります。
例えば、卓球のスイングを教える際、「腕をもっと早く振る」ではなく「腕で風を切る音を感じて」といった比喩的な表現を使って指導します。
こうした比喩は、選手の想像力を刺激し、感覚的に理解を深める手助けとなります。
5. 態度や行動で伝える
もう一つ重要なこととして、コーチ自身の態度や行動によって、「選手自身が答えを見つけるための案内役」に徹することです。
そうすれば選手は自ら気づき、試行錯誤を繰り返すようになります。その積み重ねが、結果として成長を大きく加速させるのです。
具体的には次のような態度や行動が例として挙げられます。
- 落ち着いた態度で待つ:選手が失敗を繰り返しても、コーチ自身は焦らずに、安心できる雰囲気をつくる
- 小さな成功を認める:「今のは前より良い」と細かい進歩を示して自信を育てる
- 自身の経験を共有する:失敗談や工夫を伝え、選手が挑戦しやすい空気をつくる
- 問いかける:「今の動きどう感じた?」と投げかけ、選手に考える余地を与える
- 一貫した姿勢を見せる:日常の態度や言葉遣いからも誠実さを示し、模範となる
これらの態度や行動によって、選手が自ら気づき考えるきっかけを得られます。
スポーツコーチに向いている人の特徴とは?
スポーツの現場で選手を導くには、特別なスキルや資質が求められます。単に技術を教えるだけではなく、選手の感覚や個性に寄り添いながら成長を支援する力のことです。
ここでは、スポーツコーチに向いている人物像を解説します。これらの内容を確認して、自身が不足している部分を補うヒントにしてください。

1. 観察力が鋭い
鋭いコーチは、選手の動きや癖を正確に観察し、改善点を素早く見抜く力があります。小さな進歩も見逃さず、的確な指導につなげられます。
2. コミュニケーション力が高い
優れたスポーツコーチは、技術だけでなく、選手の信頼を得るためのコミュニケーション力を持っています。ただ指示を与えるだけでなく、選手の気持ちを理解し、安心して取り組める環境を作ることができます。
3. 忍耐強く、柔軟性がある
選手が新しい技術を身につけるには時間がかかります。コーチには、選手のペースに合わせて焦らず待つ忍耐力と、異なる理解の仕方に応じた柔軟な対応が求められます。
4. 自ら学び続ける姿勢を持つ
スポーツ理論は常に進化しています。コーチであり続けるには、常に新しい知識やスキルを学び、現場に取り入れる姿勢が求められます。
5. 共感力があり、選手の個性を尊重できる
選手の感情や価値観を理解し、強みを伸ばすアプローチを取れることがコーチの真価です。
共感力を持つコーチは、選手が自分自身の可能性を信じ、挑戦を続けられるように導くことができます。
6. 自分自身も実践できる
コーチが実際に動きを示すことは、選手にとって何よりの指導です。年齢などで難しい場合でも、自分なりの実践方法を探す姿勢が大切です。
コーチングはコーチ自身の自己表現の手段です

スポーツコーチにとって、各種目の優れた動きを選手に伝えることは非常に難しい課題です。当記事では、それを可能にするための「5つの伝え方」を解説しました。
ただし、信頼されるコーチに必要なのは技術や知識だけではありません。
観察力、コミュニケーション力、忍耐力、学び続ける姿勢、共感力、そして実践力。
これらの資質を持ち、さらに成長させていける人こそ、選手にとって頼れるコーチとなります。
そして最後に認識しておきたいのは、コーチングがコーチ自身の「自己表現の手段」であるということです。指導の中で使う言葉や動作、態度、選手との接し方には、コーチ自身の価値観や信念が反映されます。選手は単に技術を学ぶだけでなく、その指導スタイルを通じて感覚やモチベーションを受け取るのです。
コーチを目指す人は、まず自分の得意分野を理解し、それを磨きながら不足している部分を補う努力を続けましょう。そうすることで、選手と共に成長できるコーチングが実現できます。
そして、自分らしい表現を通じて、選手の心に響く指導を目指してください。
さいごに
スポーツコーチングは、科学的知識とコーチ自身の自己表現が融合している指導の形です。
優れた動きを教えることは決して簡単ではありません。
しかし、選手がその動きを自分のものとして体感し、実践できるようになったとき、その指導は成功したと言えるでしょう。
また、コーチ自身にとっても、選手と共に成長する過程が最大の喜びであり、コーチングの醍醐味と言えます。この考え方は、スポーツに限らず、ビジネスや教育などのコーチングにも当てはまります。
どの分野でも、クライアントがスキルや考え方を自分のものとして吸収し、実践することで成長が生まれます。このように、コーチングは創造的な共同作業であり、成長を分かち合う喜びをもたらすものなのです。
コーチとしての一歩を踏み出すために
スポーツコーチングは、知識や技術、「伝える力」と「観察力」を磨く継続的な学びが欠かせません。もし本記事を読んで「コーチを目指したい」「もっと指導力を高めたい」「自分のコーチングを体系的に学び直したい」と感じたら、次のような学びやツールも検討してみてください。
スポーツコーチングを学ぶ
主に4つの方法になります。
- 大学・資格コース(例:体育学科、教育学科):スポーツ科学や教育学などを体系的に学び、専門資格を取得できる。
- 法人・団体プログラム:一般社団法人 日本スポーツコーチング協会など、専門団体が提供する充実したカリキュラム。
- 競技団体や現場アシスタント:現場で選手と関わりながら、実践的に指導方法や運営を体得する。
- コーチングスクール:話術・質問力・伝え方など、幅広いコミュニケーションスキルを「各スクール独自のメソッド」で学べる。ただし、スクールごとに特徴があり、合う・合わないが分かれる。
スポーツのフォーム解析・動作改善ツール
選手の動きを客観的に把握できるアプリやカメラは、指導精度を一段と高めます。導入の検討をしてみてください。
各種アプリ
アプリ名 | 主な用途・特徴 | リンク |
---|---|---|
SPLYZA Motion | スマホで各部位の角度、速度、加速度などを自動で計測・可視化して動作解析。教育・スポーツ領域での導入多数。 | 公式サイト |
DARTFISH Apps | 撮影した映像にラインや図形を書き込んで説明できる機能。撮影結果はクラウド経由で共有でき、指導の振り返りにも最適。 | 公式サイト |
ForceSense | 野球動作専用。主に野球のピッチングやスイング動作を対象としたiPhoneアプリ。映像解析によりフォームの改善をサポートします。 | App Store |
👉どのアプリを選ぶかは競技や指導スタイルによって変わります。
スポーツ選手の筋肉タイプを知る方法
選手の筋肉タイプ(速筋か遅筋か)を知ることは、競技選びやポジション適性、さらにはトレーニング方法の見直しに役立ちます。
近年では、遺伝子レベルで筋肉の傾向を調べられるサービスも登場しています。検査によって、速筋・遅筋のタイプだけでなく、血管収縮能やエネルギー産生力といった体質的な要素まで把握できる場合があります。
こうしたデータを活用することで、より選手の特性に合った指導が可能になります。
スポーツ選手の成長を支えるトレーニンググッズ
バランスボード、ラダー、ストレッチポールなど、基礎動作を磨く器具は指導現場でも重宝します。楽天やAmazonなどで人気のスポーツトレーニング用品を見るのがよいでしょう。
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